先生がいてくれるなら③【完】
──それは、クリスマスデートのあの時に、先生が渋々教えてくれた事。
『……お前を助手席に乗せるの、緊張するんだよ……』
あの時はピンとこなかった言葉も、いま考えてみると色々分かって来て。
あぁ、先生は、私のためにずっと緊張してくれたんだな、って嬉しくなると同時に、今は少し切ない。
可能であるのなら、あの頃に、戻りたい──。
「立花。あの時お前が言った言葉が本心じゃ無いって、ちゃんと分かってるから……」
私を抱き締めたまま、先生は言葉を続ける。
「そうでなきゃ、高峰の事で色々動いてくれたりしなかっただろう?」
先生の腕が、無言のままの私をギュッと抱き締めて……。
「ごめんな。きっと、すごく辛い思いをさせた。それと、……ありがとう」
先生はそう言って少し腕を緩めて、私の頬に自らの唇を押し当てた。
「……先生、さっきから、ずるすぎます……」
私、太刀打ちなんか出来ないじゃないですか、そんな事されたら……。
「良いんだよ、恋愛はずるい方の勝ちだから」
「……初耳です」
「んじゃ、覚えといて。お前じゃ一生俺に勝てないから」
「……もうっ」
私が先生の胸に額をグリグリと押しつけると、先生は嬉しそうに笑いながら「ここがお前の居場所だろ? おかえり、立花」と、そう言って、私をもう一度ぎゅうっと抱き締めた。
──はい、私の負けです。
「…………ただいま、先生」
私が観念して小さな声でそう言うと、先生は何も言わずに頷いて、抱き締めていた腕を緩め──
私の唇にそっと、優しく優しく、口づけた──。