先生がいてくれるなら③【完】
「光貴と親父から聞いた……お前が色々頑張ってくれたって。お礼と、お詫びを言うようにって……」
俺がそう言うと、立花は俯いたまま、頭を左右に小さく振った。
「ごめん……、ありがとう」
俺の言葉に、また、小さく頭を振る。
お前が俺のために頑張ってくれたこと、ほんとにちゃんと分かってるから……。
「立花……」
名前を呼んでも顔を上げてくれない。
どんな表情をしてるのか、だいたい想像はつくけど。
きっと、その瞳に涙をいっぱいに溜めてるんだろ?
ごめんな……。
俺は彼女に一歩近づいて──彼女をギュッと抱き締めた。
立花は一瞬身体を硬直させたが、すぐにほぐれるのが分かった。
うん、そうやって俺に身体をゆだねてくれれば良い。
だけど──
立花は俺の身体をそっと両手で押して、俺から離れてしまう。
名前を呼んでも頭を左右に振るばかりで……。
俺に向かって小さく頭を下げ、横をスッと通り過ぎてしまった。
俺が「家まで送る」と言うと一瞬立ち止まったが、「バスで帰りますから……」と言う彼女を、俺は引き止める事が出来ないでいる。
立花はそのまま振り返ること無く、俺の前を立ち去った──。
はぁ……、俺、まさか本気で嫌われたんじゃないだろうな……。
いや、でも……、だったら俺なんかのためにあそこまでやってくれたりはしないだろう。
そう言う自惚れの元、俺はもう一度この手に取り戻すべく、きちんと彼女と向き合うことにした。