先生がいてくれるなら③【完】

「……で、何の話だったっけ?」

「……」

「お前に誘惑されて、すっかり何の話だったか忘れた」


ゆ、誘惑なんかしてませんっ、人聞きの悪いこと言わないで欲しい。


「高峰さんの、話ですっ」

「……あぁ、そうだった」


先生は、高峰さんの名前を出す度にちょっと嫌な顔をする。


そんなに嫌いなんだ……。


「そもそも、なんでアイツが入院したからってお前がアイツの世話しなきゃならないんだ?」

「えっと、だから、放っておけなくて……」

「お前を脅したヤツを?」

「……はい、まぁ……」

「お人好しすぎるだろう!?」

「……そ、そんな事ないです……」


一方的に責められ続ける私。


そんなに怒らなくてもいいじゃないですか。


「だって、入院したら色々、大変じゃないですか。身の回りのこととか……」

「それは、アイツの家族がやることだろ?」

「……誰も、来なかったから……」

「だから、それは、アイツの問題だろ!?」


うーん、困った、話が前に進まない。


「とにかく、私が通ってるうちにですね、高峰さんも心境の変化があったらしく……」

「おい、話を逸らしただろ」

「だって、進まないんだもん!」


わざと頬を膨らませて怒ってみせると、先生の手が伸びてきて、私の頬を指で突いた。


「フグ」

「……フグは話を前に進めたいですっ」

「分かった分かった。……それで?」


ようやく先生が話を聞いてくれる体勢に入ったので、高峰さんとふたりで小児科に何度か通ううちに彼女の心境に何かしらの変化が起こり、彼女は新しい目標を見つけた、と言うことを話した。


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