先生がいてくれるなら③【完】
「先生、またこのマグカップでコーヒー飲みたいです」
私がそう言うと、先生は嬉しそうに目を細めて、「子供はミルク多めで」ってふざけて言うから、私は抱き締めていたクッションを先生の綺麗な顔に投げつけた。
──もちろんキャッチされてしまって、先生の顔には当たらなかったけど……。
私が投げつけたクッションをポイとソファの下に落とし、先生が私の腕を引いて抱き寄せる。
「コーヒーぐらい、いつでも淹れてやる」
「ほんとですか?」
「うん、本当」
「ミルク多めで?」
「ご希望なら、ブラックでも」
「やった。嬉しい」
「その代わり……」
「……はい?」
言葉のキャッチボールが途切れて、私は先生の言葉の続きを待った。
「もう、俺から離れないこと」
「……」
私は先生の背中に手を回し、私も先生をぎゅっと抱き締める。
「……返事は?」
「……はい」
「ん、約束な」
「はい……」
先生は一度抱き締める腕に少し力を込めたあと、少しだけ身体を離して私の顔を覗き込む。
「ホントに分かってる?」
「わ、かってます」
間近で見る先生の綺麗なブルーグレーの瞳にドキドキしながらコクリと頷くと、先生は「それなら良し」と言って私にそっと口づけた。
優しく触れるだけのキス。
──しあわせで、胸が潰れそう。
目の前で優しく微笑む美しい悪魔に、完全に心を奪われてしまって、どうしようもない。
もう絶対に先生から離れない、そう心に決めて、再び訪れたしあわせをゆっくりと噛みしめた────。