先生がいてくれるなら③【完】
──このままここで、全てを奪ってしまおうか……。
そんな悪い考えが頭を過ぎり、慌ててそれを振り払う。
俺は自嘲の笑みを浮かべながら、「うそ。子供にはまだ早すぎるから、しないよ」と言って立花から身体を離すと、心底安堵したような表情で小さく息を吐き出していた。
まだ息が整わない立花は、ソファに寝そべったまま荒い息を繰り返している。
「いつまでもそうしてたらもっかい襲うけど、いい?」
俺がそう言うと、慌てて起き上がり、はぁはぁと肩で息をしている。
──危ない。
このままだと、いつかホントに理性が途切れて、襲いかかってしまいそうだ。
色っぽい瞳で睨んでくる可愛い彼女を再び押し倒してしまわないように、散らばり始めている理性を懸命にかき集めて、何でもないフリをする。
「……で、何の話だったっけ? お前に誘惑されて、すっかり何の話だったか忘れた」
誘惑されすぎて、危うくホントに襲うところだった。
──あぁ、そう言えば、高峰の話をしていたんだった。
交通事故の怪我で入院している高峰の身の回りの世話を、なぜ立花がやらなきゃいけなかったのか釈然としないが、どうやらそのお節介が功を奏して高峰が改心した──とか、そんな話らしい。
俺が聞きたかったのは、高峰に何をされたのか、だ。
高峰自身の話なんかどうでもいい。
勝手にアメリカでも何でも行って、もう二度と帰ってこなくて良い。