先生がいてくれるなら③【完】
だいたいの話を聞き終わったところで、俺は立花を引き寄せて、ギュッと抱き締めた。
可愛い憎まれ口を叩く立花の頭を、よしよし、と撫でると、子供扱いされたことに腹を立てていたけれど、そのうち俺の背中に両手を回して、ギュッとしがみついてくる。
ははっ、可愛いな。
抱き心地の良い抱き枕みたい──なんて考えていて、俺は、ある事を思い出した。
まずい。
とてもまずい事を思い出してしまった……。
俺は立花から身体を離すと、「ちょっとごめん……」と言って、ゲストルームへ、ある物を取りに向かった。
クローゼットを開けて床に置いてある大きめの段ボール箱を取り出し、再び立花の待つリビングに向かう。
「先生、それ、何ですか?」
「……ごめん、別れた後、仕舞い込んでた……」
それは、立花と別れた日に、立花との思い出のある物を乱雑に放り込んだ箱だった。
その中から立花専用のクッションを取り出すと、立花はすぐにその箱がどう言う物か分かったらしく、眉尻を下げる。
差し出したクッションを俺の手から受け取ると、ギュッと抱き締めて「先生……ごめんなさい……」と申し訳なさそうに呟いた。
謝らなきゃいけないのも、申し訳ないと思わなきゃいけないのも、俺の方だ。
俺は立花の頭をグシャグシャと撫で回した。
「お前が悪いんじゃないから、もう謝らなくて良い。それに、どっちかって言うと謝るのは俺の方だし」
そう言って段ボールの中を立花に見せた。
結構乱暴に放り込んだから、食器の幾つかが割れている。
「ごめん、雑に放り込みすぎた……。また一緒に買いに行こうな」
俺がそう言うと、コクリと頷いて、立花が俺の手をギュッと握った──。