先生がいてくれるなら③【完】
──と、そんなわけで、早速、割ってしまった食器類を再び買い揃えるために、ショッピングモールに来ている。
誰か見知った人に会うんじゃないかと気が気じゃないのか、立花は相変わらずそわそわと落ち着かない様子だ。
「平気だって」
俺がそう言うと、「でも……」と言って心配そうに眉尻を下げるので、俺は立花の手を握って強引に歩き出した。
「買わなきゃ帰れないだろ。いつまでもこんな所でウロウロしてる方が目立つ」
「それはそうですけど……」
引っ張られるように歩く立花を、俺はまたいつかの時のように、立花の細い腰に腕を回して引き寄せた。
「わっ、ちょっと、せん……、」
先生、と大きな声で言いそうになって、慌てて口をつぐんだ立花。
うん、確かに今その呼び名はマズイな。
俺は立花の耳元に顔を寄せて「“先生” はマズイから、下の名前で呼んでみる?」と囁くと、立花は真っ赤な顔をブンブンと横に振った。
立花は俺のことを、光貴がいない限りは必ず “先生” と呼び、俺は必ず “立花” と呼ぶ。
立花が絶対に俺を “先生” と呼ぶのは、恐らく俺が立花のことを下の名前で呼ばないのと同じ理由だろう。
──学校でうっかり下の名前で呼ばないように。
立花のことを、明莉、と呼びたい気持ちはある。
だけど万が一のことを考えると、そんな危険なことは出来なかった。
恋人である前に、俺と立花は、教師と生徒だ。
その上で成り立っている関係なのだと言うことを、絶対に忘れてはいけない。
立花のことを大事に思ってるなら、俺は絶対に選択を間違えてはいけないのだ。