先生がいてくれるなら③【完】
そんな自分の心の内を隠して、「……つまんねぇの」と触れるほどの至近距離で耳元に囁きかけると、立花の耳が一気に熱を持つのが分かった。
お前、相変わらず耳弱いな……。
どうしよう、もっと意地悪したくなる……。
立花の腰を更に引き寄せると、身体が密着して、立花が慌て始めた。
「あっ、あのっ……」
先生、と呼べないから、ますます慌てる。
……お前、バカだろ。
至近距離なんだから、小声で呼べば良いんだよ、そしたら俺にぐらいは聞こえる。
面白いから教えてやらないけど。
なんなら、下の名前で呼ぶか?
俺はそれでもいいぞ、今だけなら、な。
慌てふためく立花で楽しく遊びながら歩き、目的の店に到着した。
遊びは終了、腰から手を離して解放してやると、ホッと小さく息を吐き出す立花に思わず笑ってしまった。
ジロリと睨まれたので、ニッコリと微笑んで返してやると、真っ赤な顔で目を逸らされた。
食器を扱う店で、茶碗とか湯飲みなんかを見て回る。
「なぁ、これとか、どう?」
俺が茶碗と湯飲みを指さすと、立花は頬を赤らめた。
「……お前、予想と違わぬ反応をするなぁ、面白すぎる」
立花が赤くなった理由は、俺が指さした茶碗が “夫婦茶碗” だったからだ。
「どれがいい?」
俺の問いに、顔を赤らめながらも「これ……」と指さす。
湯飲みやランチプレートなんかを選んでいると、年配の店員が寄ってきて「あら、新婚さんですか?」と問われたので、俺が「まだですけど、もうすぐその予定です」と答えると、立花は案の定、慌てふためいている。
お前、ほんとバカだな、……あぁ、さっきから言ってるこの言葉は、可愛い反応をする立花に対する最大級の褒め言葉だから。
決して本気で馬鹿にしてるわけではないので、悪しからず……。
それはともかく、店員には俺の言った言葉が本当かどうかなんか分からないし、多分どうでも良いんだよ。
「お幸せそうで良いですね」と言う店員に、俺は「ええ、お陰様で」と返したが、立花はまだ顔を赤くして俯いていた。
茶碗、湯飲み、ランチプレート、その他にも数点の食器やカトラリーを買って、店を後にした。