先生がいてくれるなら③【完】
息を吸おうとするのを、口の前に手がかざされているから少し吸いづらくて、「フーって、長く吐いて!」と言う声に従わざるを得なくなる。
混乱するまま、ふっ、と少し息を吐くと、細川先生の手が私の口の前から離れた。
背中を優しくさすられ、私の混乱も少しずつ落ち着きを取り戻し始める。
「そう、もう一度、今度はフーって、ゆっくり長く吐いて……」
ふぅ、……、ふぅ、……。
「うん、上手」
やっと少し呼吸が楽になって、さっきの “吸って、吐いて、吐いて” を何度かやらされて、ようやく元の呼吸に戻った。
「──過呼吸、よくなるの?」
少し落ち着いた頃にそう尋ねられ、私は首を横に振った。
「初めて、です」
「そう。もう大丈夫そう?」
「……はい、すみません……」
「ううん、謝らなくていいんだけどさ、ちょっとびっくりした」
私はまだ細川先生に抱き締められたままだった。
そして、まだ停電からは復旧しない。
停電してから一体どれぐらいの時間が経ってるんだろう。
私にはとても長かったように思うけど、そうじゃないのかも知れないし、……分からない。