先生がいてくれるなら③【完】

「あ、そうだ、ランタン……」


不意に細川先生が呟いたので、私が埋めていた顔を上げると、目が合って、頭上からにっこりと微笑みかけられた。


「災害用に、小さいランタン買ってあったなって思って。携帯のライトだと、バッテリーがね」


一時的に懐中電灯代わりにする事は出来ても、長時間使用するのはバッテリーの無駄遣いだ。


ランタンとか、ちゃんとした懐中電灯があるならそっちの方が良い。


……そして、そっちの方が私は安心だ。



私が頷くと、先生は「ちょっと移動しても大丈夫?」と私の顔を覗き込みながら言った。


私はもう一度小さく頷く。



──外はまだ雨が強く降っていて、でも雷の音は少し遠ざかったようだ。



床にぺたりと座ったままだった私の手を取って立ち上がらせてくれた。


目の端に携帯のライトがチラッと見えそうになって、慌てて視線を他へ滑らせる。



私は細川先生に手を引かれて、部屋の中を移動した。


私に気を遣ってゆっくりと移動してくれる。



「ちょっと待ってね、確かこの引き出しに……。あぁ、あった、ちゃんと点くと良いんだけど」



そう言ってスイッチを入れると、小さなランタンは優しい光をともした。


それを確認して、先生は携帯のライトを消す。



……あぁ、やっと、ホッとした…………。


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