先生がいてくれるなら③【完】
ほんの少し冷静になって来たことで、私は今の状況が、すごくすごくまずい状況なんじゃないかと、ようやく気がついた。
こんな事が先生──藤野先生に知れたら、きっと…………
そんな時に限って、やっぱり良くないことが起こるもので──。
急に携帯電話の着信音が鳴り響いた。
「……立花さんの携帯だね」
そう、私の携帯が、このけたたましい音を立てているのだ。
細川先生がそっと私から離れたので、私はポケットの中で鳴り続ける携帯電話を慎重に取り出した。
着信画面を確認するのが怖い……。
この状況で私に電話を掛けてくるのは、お母さんか、藤野先生だろう。
お母さんであって欲しい……そう願って、なるべく細川先生に見えないように、そっと画面を確認する。
画面に映し出された電話の主は、私の大好きな人の名だった──。
……もちろん登録名は本名じゃないけど。
「……出ないの?」
細川先生にそう尋ねられ、私は渋々、通話ボタンをタップする。
「……もしもし」
不自然なほどに、声が掠れてしまう。
藤野先生はそれに気付いてしまっただろうか……。
『立花!? 停電してるだろ、大丈夫か!?』
先生が私を心配する声が聞こえる。
私はなるべく先生の声が漏れないように、受話口を自分の耳に強く押しつけた。