先生がいてくれるなら③【完】
「彼、年上って事は、大学生? 何年?」
そう問われ、広夢さんは確か、と考えを巡らす。
「えっと、4年生です」
「4年……。俺と1個しか違わないじゃん……」
「あ、はい、そうかも……」
細川先生は新卒だから、確かに広夢さんとは一つ違いだ。
「4年だったら、来年は社会人か」
「あ、いえ、医大生なので……」
「えっ……? あ、そうなんだ……」
広夢さんはぱっと見、ちっとも医大生には見えない。
それは光貴先生も同じで、こんな容姿の良い医者がいるものか、と思ってしまう。
細川先生の短い驚きの声は、そんな意味が込められていると私は勝手に理解した。
「……それにしても、医大生、ね……」
細川先生が自らの髪をぐしゃりとかき乱し、小さなため息を吐いた。
ほんの少しの沈黙の後、もう一度、はぁ、とため息を吐いた細川先生は「暑くなってきたね。雨も弱くなったし、窓開けようかな」と言って、ゆるりと立ち上がった。
そして、何かを逡巡した後、少しかがんで私の顔を覗き込み、「窓開けに行くけど、ひとりで大丈夫?」と尋ねられ、私はコクリと頷いた。
八畳ほどの広さの、ロフト付きの部屋。
私を置いて窓を開けに行っても、お互いが見える場所にいるし、次の瞬間には戻って来られる。
暗闇が怖い私を気遣って聞いてくれたのは明白だ。