先生がいてくれるなら③【完】
少し考えるように沈黙した後、「こう言う暗いのは、大丈夫なんだ?」と口にした。
「……は、い?」
私は一瞬意味が分からなくて、首を傾げて、すぐ隣を歩く細川先生を見上げた。
少し眉尻を下げた細川先生が、私の瞳をじっと見つめている。
「えっと……、夜道も暗いけど、怖がってる様子は無いなって思ってさ」
「あ、あぁ……そうですね、光があるから、大丈夫です」
「そうなんだ」
「はい」
そう、私が怖いのは、真っ暗な……ひと筋の光もない、漆黒の闇が怖いのだ。
あの時を思い出してしまうから。
「怖かったら手繋いであげようと思ったんだけど……」
細川先生は、そう言って笑った。
どこまでが冗談で、どこからが本気か、私には本当にこの人がよく分からない。
とりあえず「その必要は無いです」と返事をした。
「なーんだ、残念」
さして残念そうに思えない口調で返事が返ってくる。
ホント、よく分からない人だな、と思う。
そんな風に考えている間に、私の家が見えてきた。
「先生、もうここで大丈夫です。今日は、いろいろ……ありがとうございました」
そう言って頭を下げると、「家の前まで行くよ。何かあってからじゃ遅いからね」と言われ、また隣を一緒に歩く。
家の真ん前まで来て、「ここです」と言うと「家の人って今いないの?」と問われ「いません、看護師をしていて、今日は夜勤なので」と答えると、「そう……、戸締まり、ちゃんとしてね」と言われて、さっき同じ事を電話で言ってた藤野先生を思い出した。