先生がいてくれるなら③【完】
「あと……」
──えっと、何の話をしてたんだっけ……?
「何かあったら、ひとりで解決しようとしないで、必ず俺に言うこと。……分かった?」
「……は、い」
私の耳元で先生が「ホントに分かってんのかよ、」とぼやく声が聞こえた。
その声に私は「分かって、ます……」と答えた。
納得のいかない様子の先生は、一度ギュッと私を抱き締めてから、腕を緩めて少しだけ離れる。
「……それから、」
先生が意味ありげに微笑んでいる。
あまりにも綺麗に微笑むので、それが逆に、怖い──。
だけど、綺麗すぎて、思わず頬が赤らんでしまうのが自分でも分かった。
そして、先生がおもむろに口を開く。
「──お前からキスしてくれたら、機嫌直るかも」
……は、い?
いや、無理ですよ、先生、私から、なんて……っ。
私がブンブンと勢いよく首を左右に振ると、先生は「じゃあ機嫌直らない」と、更にニッコリと美しく微笑んだ。
こわい……。
笑顔が怖いなんて、一体どう言う原理だろう。
先生は目をゆっくりと閉じて、「ん」と、キスの催促をしている。
……しなきゃ、機嫌直らないのなら、仕方ない、……するしか、ない。
私は意を決して、先生の顔にゆっくりと近づく。
先生の綺麗な顔が間近に見えて、思わず躊躇してしまう。
恥ずかしい。
自分からするのがこんなに恥ずかしいなんて、思いもしなかった。
私はギュッと目を瞑って、思い切って先生の唇に自分の唇を優しく押しつけて……、ゆっくりと離れた。