先生がいてくれるなら③【完】
心配……と言うより、実のところあいつの声が聞きたいだけなのだが……。
テーブルに置いていた携帯を手に取り、立花の携帯を呼び出す。
なかなか出なくて、思わず、だんだん心配になって来てしまった。
コール音を聞きながら、俺は出掛ける準備をするべきか、と迷い始める始末。
すると、ようやくコール音が途切れて「……もしもし」と、か弱い声が俺の耳に届いた。
「立花!? 停電してるだろ、大丈夫か!?」
思った以上に心配している声色になってしまい、自分でもビックリして苦笑してしまった。
『停電、してますね。一応、大丈夫です。……えっと、そっちは?』
「ここは自家発電があるから大丈夫だよ。お前、いま一人?」
『……はい』
「そっちに行こうか?」
やっぱり心配だから、立花の家に……と思って車のキーを手に取ったところで、立花の焦った声がした。
『だっ、大丈夫ですっ。信号とかも動いて無さそうだし、危ないからやめてくださいっ』
確かに、信号機も停電の影響で点いていないらしいことは、マンションの眼下に広がる黒い空間からも見て取れた。
「……本当に大丈夫?」
『大丈夫です、このまま電気が点かなかったらもう寝ちゃいますから』
明るくそう返され、それを信じた俺は、「戸締まりと火の元だけは確認しとけよ」と注意を促した。
明日電話してもいいか、と聞かれ、良いよ、と答えて、電話を切った。
──まさか、立花が自宅にいないなんて、思いもしない。
しかも、あの、忌々しい細川の家に上がり込んでるだなんて、誰が想像出来ただろう……。
立花の声を聞いて安心したらしい浅はかな俺は、このあと集中して仕事を片付け、一日を終えた──。