先生がいてくれるなら③【完】
慌てる広夢と、今にも泣き出しそうな立花をリビングに放置して、俺は寝室へと消えた。
ベッドにドサリと乱暴に腰掛けてそのまま後ろへと倒れ込むと、ベッドのスプリングで身体がゆらりと上下する。
きっと醜く歪んでいるだろう自分の顔を、両手で覆った。
立花の危機感の無さは、救いようが無い。
どれだけ気を付けるように言っても本人は安全だと思ってるのだから、改めるとか気を付けると言った類いの問題では無いのだ。
俺が四六時中あいつの傍にいられるなら、気を付けてやれるが……そんな事は不可能だ。
──はぁ。
もう、ため息しか出ない。
しばらくすると立花が寝室のドアの向こうから「先生、今日は本当にごめんなさい。帰ります。冷蔵庫にお料理を入れておいたので、食べて下さいね」と声を掛けられたが、返事をする気分にはなれなかった。
脳裏に立花の泣きそうな顔が浮かんだが、何度目かのため息と共に、無理矢理その残像をかき消した──。