先生がいてくれるなら③【完】

……あぁ、甘い香りがする……。


シャンプーの匂いでも、ボディーソープの匂いでもない、甘く、俺をひどく酔わせる匂いだ……。


腕の中にすっぽりと包み込んで、その甘い香りを堪能する。


すると、立花が更にギュッと抱きついてきて、「先生、どうやったら機嫌直してくれますか?」と尋ねてきた。


可愛い言い方に、脳が強く揺さぶられたような感覚に陥る。


理性を吹き飛ばさないように堪えながら、「まず、危ないことはしないように」と言うと、腕の中で小さく頷く。


そして、細川に対しての注意を与え、俺は立花の顔を覗き込んだ。


「……お前、ホントに分かってる?」


分かってる、と答えるが、こいつ、絶対分かってない。


「じゃあ、あの男がお前を狙ってるの、気付いてるか?」


そう問うと、首を傾げた。


……ほら。


なにひとつ分かっちゃいない。



俺は、すぐ目の前にある立花の耳に顔を寄せて、「あの男も、お前にこう言うことしたいと思ってるってこと、気付いてないだろ」と囁いた。


もちろん、俺の息が十分にかかるように、なるべく吐息混じりに。


俺の声と吐息を耳に存分に吹き込まれた立花は、ビクリと身体を震わせる。


それと同時に一気に身体が上気し、俺の唇に触れる耳殻がじわりと熱を持ち始めた。


耐えるように、でも、耐えきれずに、俺にギュッとしがみつく立花は、もう息が上がっている。



──いや、俺、まだ何もしてねぇし。


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