先生がいてくれるなら③【完】
──だから、まだ、ほとんど何もしてないんだけど。
俺は苦笑しながら立花のシルクの肌から唇を離す。
「……他の男にこう言うことさせるなよ?」
俺の言葉への返事が返ってこないので、「……分かってんのか?」と返事を促すと、俺にぐったりと身体を預けたまま、小さく頷いた。
ん、良い子。でも……
「ったく、ホントに分かってるんだろうな。お前の危機感の欠如は世紀末レベルで恐ろしいからなぁ」
俺は立花の頭をグシャグシャと撫で回しながら、思わず愚痴が口から零れ出る。
「あと……、何かあったら、ひとりで解決しようとしないで、必ず俺に言うこと。……分かったか?」
はい、と小さな返事をしたけど、「ホントに分かってんのかよ、」と思わずぼやいてしまう。
俺の機嫌は、まだ半分ぐらいしか直ってない。
残りの半分は、お前がちゃんとご機嫌取りしてくれるんだろうな……?
にっこりと、なるべく優しく微笑みかけてやると、立花の頬がうっすらと赤らむのが分かった。
滅多に俺の役に立つことのないこの人目に付く顔貌が、立花の心を捕らえるのに役に立つのなら、最大限に利用してやる。
口元に笑みを浮かべたまま、ご機嫌取りの方法を言葉に乗せて立花をそそのかす。
「──お前からキスしてくれたら、機嫌直るかも」
驚いたように目を丸め、勢いよく首を左右に振る立花。
予想通りの反応で、声を立てて笑い出したくなるのを堪えながら「じゃあ機嫌直らない」とニッコリしながら言い放ってやる。
赤らんでいた顔が、今度は青ざめ始めた。
そうだよ、お前からキスしてくんなきゃ、俺の機嫌、直らないから。