先生がいてくれるなら③【完】
私は、予想していた人ではない人物の名前が出たことに、一気に身体の力が抜けた。
放心状態の私に、教頭先生が「どうですか?」と声を掛けて答えを促す。
……いけない、ちゃんと答えなきゃ。
「えっと、細川先生とのこと、ってどう言うこと、でしょう……?」
「細川先生と、親しいですか?」
「……普通、だと思います。会えば挨拶をしますし、場合によっては世間話も、します」
「細川先生は、三年生は担当していませんが?」
「私は今のクラスで英語係をしているので、準備室でお見かけします」
「それだけ、ですか?」
質問の仕方に若干の悪意を感じるのは、気のせいだろうか……。
「あと、家の最寄り駅が同じだと思います。一度、偶然駅のホームで隣に並んでいたことがありました。その時も朝の挨拶のあと、話をしました」
うそは言っていない、ただ、いくつかの事実を伏せているだけだ。
実際は、細川先生のアパートを知ってるし、雷を避けるためとは言え、部屋に上がらせてもらったこともあるし、なんならパニックを起こした私を介抱してもらったし、その上、実は細川先生が赴任する前から知ってたりする。
でも、そんな事を言うとますます面倒なことになると思うので、とりあえず言わないことにした。
校長室に集まった先生方は私の返答に納得したのか、しないのか、分からない。
納得してくれた、と思いたい。