先生がいてくれるなら③【完】
「あ、俺はそろそろ行かなくちゃ。招待してくれた人と待ち合わせてるんで」
岩崎さんがそう言いながら優雅な仕草で立ち上がった事によって、私はすぐに他のことに気を取られてしまった。
──ホント、なんでこの人モデルじゃないんだろう?
雑誌の表紙を飾ったら、一瞬で売り切れそうなぐらい素敵なのに。
「じゃあ、ご馳走様でした、立花さん」
「あ、はい。どうもありがとうございました」
岩崎さんはヒラヒラと手を振って、3年3組の教室を出て行った。
──あれっ?
私、自己紹介、させてもらえなかったよね……?
それなのに、名前……、
「明莉っ」
「わっ。びっくりした!」
考え事をしていた私は椿にポンッと肩を叩かれて、思わず飛び上がった。
「お礼、ちゃんと言えた?」
「うん。あの人、現国の先生なんだって」
「ふぅん、どこの学校?」
「え、あ、聞いてない……」
「……明莉らしいね」
「ん? どう言う意味……?」
「ふふっ、ぼんやりさん、ってコト」
「もうっ!」
そう言われれば確かに、どこの学校の先生か聞けば良かったなと、今頃になって思う。
椿の言葉に全く反論できない……。
ぼんやり、か……、つまり頭の回転の鈍い子、ってコトだよねぇ。
否定はしません、出来ません……。