先生がいてくれるなら③【完】
簡単な料理ばかりで申し訳ないけど、少しでも映えるように綺麗にプレートに盛りつけ、シャンパングラスに炭酸水を注いだ。
「立花、18歳の誕生日、おめでとう」
グラスを掲げて、先生が柔らかく微笑む。
その綺麗すぎる表情に、私の胸がキュン、と音にならない音を立てている。
「ありがとうございます、」
たったそれだけの言葉を言うのに、喉の奥に何かがつかえたようになって、先生の顔が涙でぼやけそうになった。
グラスをそっと触れ合わせると、カチン、と、綺麗な音が鳴る。
フッ、と微笑む先生は、やっぱりあまりにも綺麗で、私の胸がまた、キュン、となった。
何度見ても、何度微笑まれても……、ううん、私は先生のどんな表情にだって、胸が高鳴るんだと思う。
「……ごめんな、お前の誕生日なのに、自分で用意させて……」
先生が申し訳なさそうな顔で私に謝るけど……。
「ううん。私の料理を先生が食べてくれるのが嬉しいので、それが何よりの誕生日プレゼントです。だから、気にしないで下さい」
これは本当のことだ。
だって私は、特別な料理が出来るわけじゃない。
いたって普通の家庭料理しか出来ない、……いや、実の所それすらも怪しい。
レパートリーだって決して多くないし、プロが作った料理もあまり口にする機会が無い──つまり、あまり外食をした事が無いから “本物の味” も、ほとんど知らない。
だから、きっと、私よりも美味しい物をたくさん食べてきたはずの先生の舌を満足させられている自信は、正直言って全くない。