先生がいてくれるなら③【完】
それでも先生は、私の作る料理に文句を言ったことは無いどころか、いつも “美味しい” と言ってくれる。
それがどれだけ私を喜ばせているか、先生は知らないんだろうな。
今日も先生は、私の拙い料理を完食してくれた。
先生は私のために誕生日ケーキを用意してくれていて……。
しかも……。
ホールケーキの上に飾られた『Happy Birthday』というプレートに、私の名前が──『明莉』と、下の名前で書かれていて……。
普段、私のことを呼ぶ時も、絶対に下の名前では呼ばない先生……。
実は私の名前を知らないんじゃないかと思ってしまうぐらい、ほんとに、絶対に呼ばないのに……。
ううん、本当は、先生が私を下の名前で呼ばない理由は、よく分かってる。
だって私も、光貴先生がいない限りは絶対に先生のことを下の名前では呼ばない。
うっかり学校関係の誰かに聞かれてしまうと、まずいから。
私も先生も、考えてることは同じなんだと思う。
口にはしないけど、なんだか初めて名前で呼んでもらったみたいな気になって、とても嬉しい。
数字のローソクに火を付けた先生も、嬉しそうに微笑んでる。
「改めて……。18歳の誕生日、おめでとう、立花。生まれてきてくれて、俺と出会ってくれて、ありがとう」
「先生……、ありがとうございます。私も先生と出会えて、本当に嬉しいです」
ほら、消して、と先生に促され、私はローソクの火をフーッと吹き消すと、先生がパチパチパチ、と手を叩いた。
「あはは、ありがとうございます」
「小さい子供の誕生日会みたいだなぁ」
「もうっ」
「ははは、冗談だよ。ケーキ切ってくれる? その間にコーヒー淹れる」