先生がいてくれるなら③【完】

──将棋部部室の鍵を開け、静かにドアを閉めた。


電気を点けるとばれてしまう。


廊下の灯りが扉の磨りガラスから入って来て、目が慣れればそれなりに見えるので、電気は点けず、私は入り口から少し離れた場所へ背を壁に付けて、そのままずるずるとしゃがみ込んだ。



「はぁ、……」



去年の文化祭を思い出して、私は思わずため息を吐いた。


今年もまぁまぁ楽しめたけど、やっぱり去年のことを思い出してしまうと、しんみりしちゃう。



私は両手で顔を覆った。


……誰もいないから、泣いてしまおうか。


でもこの後まだホームルームがある、その時に目が赤いと、椿に心配されちゃうからなぁ。


私は立てた膝を抱え込み、額を膝に押しつけた。


少し涙ぐむぐらいなら、泣いたこと、ばれないよね?



──外からは相変わらず実行委員長が何かを話している声が聞こえてくる。


今年の委員長はおしゃべりさんらしい。


何を話しているのかまではよく聞こえないけれど、校庭のスピーカーから聞こえてくる話し声らしき音を、膝に顔を埋めたままぼんやりと聞いていた。



──外がそんな風に少し騒がしいから、だから私は気付かなかったんだ。


私以外の人が、この部屋に入ってきていた事を……。





「……こんな所で、何してるの?」





私は心底びっくりして、ビクッ、と身体を震わせた。


すぐにその声の主が誰か気付いたからそれ以上は驚かなかったけど、心臓はまだドキドキと凄い勢いで暴れている。


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