先生がいてくれるなら③【完】
──「先生、シャンパングラスって、ありますか?」
立花にそう問われ、「……あるけど、酒はダメだぞ?」と返すと「お酒じゃないです」と言って、立花は可愛く笑った。
どうするのかと思ったら、炭酸水をシャンパンに見立てよう、と言うことらしい。
ふわりと花のように笑う立花の表情に、俺の心臓が深くえぐられて、ドキドキと力強く脈打った。
その笑顔に、「良いアイデアだな」と返すのが精一杯だ。
こんな風に、少しでも楽しく過ごそうと工夫してくれることもとても嬉しいし、こいつ凄いな、って本当に素直に思う。
俺の方がずっと年上なのに、こう言う所、こいつには絶対に勝てない。
立花の誕生日なのに、食事を全部自分で用意させてしまったことを本当に申し訳なく思う。
しかし当の本人は、そのことは全く気にしていないらしい。
終始ニコニコしながら、持ってきた料理を手際よく、そして美しくプレートに盛りつけていた。
本人はレパートリーが少ないと言っているが、俺からすれば十分すぎるほど色々趣向を凝らして作ってくれていると思う。
そりゃあ料理人ほどは無理だけど、それは比べるだけ無駄で、とても意味の無いことだ。
プロの味を家庭で味わいたいか、と問われれば、俺は即座に「NO」と答えるだろう。
家庭では、家庭の味、それが一番だと思うから。
立花の作る料理は、俺と味の好みが似ているのだろう、どれを食べたって本当に全部美味しい、と心から思う。