先生がいてくれるなら③【完】
もじもじしながら、だんだん声が小さくなって最後の方はほとんど消え入りそうな声、だったけど……。
お、おま、え……、いま、“大人のキス”って、言った、よな……!?
「……立花、…………え、っと……」
俺は、隠すことも出来ないほどに、狼狽えた。
狼狽えるなって言う方が、無理な話だろ。
だって……ただ触れるだけのキスだっていっぱいいっぱいな立花が、大人のキスって……、お前、それ、どんなやつか分かって言ってんのか?
…………いや、想像するだけで俺の方が色々ヤバくなるから、やめよう……。
なんで急にそんなことを言い出したのか知らないけど。
「そんなに急に大人にならなくて良いよ」
この無茶な “お願い” に、立花の美しくシルクのような髪を梳きながら、自分の汚らしい欲望を隠すために、ただただ苦笑するしかなかった。
「……ダメ、ですか?」
またそんな風に、上目遣いに……。
お前、その顔がどれだけ俺の心をかき乱してるか、知ってるか?
それに加えて、その発言……。
もう『襲ってくれ』って言ってるようなもんだぞ?
……でも、襲えるわけ……ないだろ……。
いまそんなことしたら俺は一生悔いるし、自分自身を憎むよ。
……あぁ、くそっ。
俺の心の中の “善” と “悪” が葛藤を始めるが、“悪” が勝って良いはずなど無い。
無理矢理にでも “悪” をやり込めて、はぁ、とため息を吐いた。