先生がいてくれるなら③【完】

「……先生って、勉強も出来るし、足も速いし……苦手なことって無いんですか?」

「苦手なこと? あるよ、いっぱい」

「たとえば?」

「料理」

「ほかには?」

「美術」

「絵とか描くの、苦手ですか?」

「描けるけどめんどくさい」

「ほかは?」

「書道」

「……ほかは?」

「ピアノ」

「習ってたんですか?」

「まぁね。藤野家では一般教養のうちのひとつだったから」


一般教養!? うそ、藤野家、コワイ……。


「……他には何か習ってたんですか?」

「茶道と水泳。どっちも苦手」


……先生の苦手なもの、どう言う基準か、だいたい分かった。


「先生……、めんどくさいやつが苦手なんでしょ」

「……ちなみに一番苦手なのは、“人”」

「え?」

「……だから、ヒト」


──人が苦手って、……じゃあ私はヒトじゃないって事ですか!?


愕然としながら先生を見ると、先生はちょっと不機嫌そうに仕事を再開している。

私は先生の腕をチョンチョンと突いて「私って、ヒトの中に入ってますか……?」と聞くと、先生は小首を傾げて不思議そうに私を見た。

「……入ってない」

「え、じゃあ私って、何です?」

やっぱり私は先生にとって “人” じゃないのか!

私が聞くと先生は「……愛玩動物」と言ってニヤリと笑った。


──!!

「せ、先生、ヒドイ!!」


先生のばかっ。


< 282 / 352 >

この作品をシェア

pagetop