先生がいてくれるなら③【完】
「……先生って、勉強も出来るし、足も速いし……苦手なことって無いんですか?」
「苦手なこと? あるよ、いっぱい」
「たとえば?」
「料理」
「ほかには?」
「美術」
「絵とか描くの、苦手ですか?」
「描けるけどめんどくさい」
「ほかは?」
「書道」
「……ほかは?」
「ピアノ」
「習ってたんですか?」
「まぁね。藤野家では一般教養のうちのひとつだったから」
一般教養!? うそ、藤野家、コワイ……。
「……他には何か習ってたんですか?」
「茶道と水泳。どっちも苦手」
……先生の苦手なもの、どう言う基準か、だいたい分かった。
「先生……、めんどくさいやつが苦手なんでしょ」
「……ちなみに一番苦手なのは、“人”」
「え?」
「……だから、ヒト」
──人が苦手って、……じゃあ私はヒトじゃないって事ですか!?
愕然としながら先生を見ると、先生はちょっと不機嫌そうに仕事を再開している。
私は先生の腕をチョンチョンと突いて「私って、ヒトの中に入ってますか……?」と聞くと、先生は小首を傾げて不思議そうに私を見た。
「……入ってない」
「え、じゃあ私って、何です?」
やっぱり私は先生にとって “人” じゃないのか!
私が聞くと先生は「……愛玩動物」と言ってニヤリと笑った。
──!!
「せ、先生、ヒドイ!!」
先生のばかっ。