先生がいてくれるなら③【完】
バタバタと仕事を片付けている間に、あっという間に日曜日──挨拶をする日になった。
緊張しすぎる。
世の中の男はこんな風に皆、緊張する道を通らなければならないのだろうか、通ってきた先達たちは偉大すぎる……。
用意してきた言葉を、ひと言ひと言丁寧に口にするたびに、間違いなくそれが本心なのだと思う。
彼女を想う気持ちに嘘はない。
一生、愛し続ける。
だから、どうか、いま傍にいることを、許可して欲しい……。
全ての思いを言葉にして深く頭を下げると、彼女の母親に「こんな子で良いんですか、先生?」と問われてしまった。
俺の頭脳や容姿なんか、そんな上辺だけのものは、立花の内面に比べたら何も良いものなんかじゃない。
むしろ、俺には本当にもったいないぐらい、真っ直ぐで、素晴らしい人だと思う。
俺がどれだけ彼女に救われたか誰にも分からないんだろう。
だけど、とにかくいま俺に出来ることは、誠実に交際の許可をお願いすることだけだ。
「──どうか、交際をお許し頂けないでしょうか」
俺が深く頭を下げると、立花も慌てて俺の横で頭を下げた。
いくら “健全で、結婚を前提とした付き合い” だとしても、教師と生徒が付き合うことを簡単に許す親なんかいないだろう。
娘を大事に思えば、不埒な教師なんかに任せるわけにはいかないはずだ。
それなのに、「こちらこそ、娘のこと、どうぞ宜しくお願いします」と、快く許可してくれたことを、本当に、心から有り難く思う。
大切にします、絶対に悲しい思いはさせません──。