先生がいてくれるなら③【完】
──クリスマスになった。
去年のように外で過ごすことは難しいので、俺の家で過ごすことになった。
どこにも行けないのに、それでも立花はニコニコと嬉しそうで、俺はそんな立花の笑顔に癒やされっぱなしだ。
……癒やされるのは良いんだけど、すごくすごく良いんだけど、つい、手を伸ばして触れてしまいたくなるのが良くない。
手を伸ばしそうになって、はたと気付いて、慌てて手を引っ込める。
何度かそんなことを繰り返したが、俺の挙動不審については、立花は全く気付いていないようだった。
基本的に美味しい料理が目の前にあれば極上の笑顔を見せるから、簡単すぎて面白い。
……いや、バカにしてるわけじゃない。
そんなことぐらいしかしてやれないのに、こっちがびっくりするぐらい喜んでくれることが、俺にとっても凄く嬉しいことで、そのたびにとてもとても愛おしいと思ってしまう。
でも、家で食べるのなら、やっぱり自分で料理したかったらしい。
だから、「もし、俺がしあわせそうに食べてるところが見たいなら、結婚してくれたら毎日見られるけど……?」と、プロポーズのまねごとをしておいた。
俺が本気でそう思ってること、多分わかってないんだろうな。
だけど……。
立花はまだ高校生だ。
“狭い世界から、広い世界へ出て行く前” なのだ。
広い世界を知ってしまえば、俺なんか簡単に捨てられてしまうかも知れない。
“高校生活” という狭い枠の中だからこそほんの少し光って見えたけれど、明るく広い外の世界に触れると、途端に俺なんかただの黒い染みにしか見えなくなる可能性だってある。
外の世界を知っても、それでもなお俺のことを選んでくれると言うのなら、俺はもうお前を一生放さないだろう。
その時、ちゃんと言葉にしよう──。
いまはまだ、その時じゃない。
だけど、どうか、どうか、俺の手を取って欲しい……。
いまは、こんな言葉しか言えないけれど、どうか、離れていかないで欲しい……。
「──プロポーズの予約、させて」