先生がいてくれるなら③【完】
ついに、高校生活最後の日がやって来た……。
──卒業式。
この制服に袖を通すのもこれが最後かと思うと、やっぱり少し寂しい気持ちになる。
しっかりと身だしなみを整えて、家を出る。
晴れの日も、雨の日も、楽しい日も、悲しい日も、3年間歩いた通学路。
4月からは違う道を歩くのだと言う実感が、まだ全然ない。
明日も、明後日も、またここを歩きそうな気がしてしまう。
式典を目前に控えた教室は、比較的落ち着いた雰囲気だった。
着席して、教室に担任が来るのを待っているところだ。
すると、我が3組よりも一足先に2組の担任──藤野先生が教室に来たのだろう、隣のクラスの扉が開けられる音がした。
──と同時に、ざわめきと歓声が、私の教室まで聞こえて来る。
その声は、主に女子の声だった。
なぜそんな声が聞こえてきたのか、と言う理由を知っている私と椿と市橋君は、思わず顔を見合わせ、そして、同時に苦笑した。
椿が「予想通りすぎるわね」と、半ば呆れ顔になる。
2組が騒がしくなった理由──
それは、2組の担任である藤野先生が、今日はきちんと前髪をセットして、普段は隠している目元を見せて皆の前に現れたから……。
担任として、教え子たちを送り出す時にはきちんとした格好で送り出してやりたい──そんな気持ちの表れなんだろうと思う。
先生本人は否定するけれど、私から見た先生は、そう言う人だ。