先生がいてくれるなら③【完】

仕方ないよね、私は先生の全てを、自分の目に焼き付けておきたいから。


そうやって先生が目を細めた瞬間も、私の中のアルバムに収めて、ずっと大事にするから。


着席する直前にもう一度先生の方を見たら、先生は今度は表情を変えなかった。


あはは、つまんない。



そんな風に、余裕で色々考えていられたのは、全てのクラスの授与が終わるところまでだった。


校歌斉唱のあたりから、あちこちからすすり泣きが聞こえ始める。


う。私も、もうだめかも……。


だって、色々思い出してしまった──。



希望の中にも不安が入り交じっていた、入学したての頃。


美夜ちゃんと仲良くなって、楽しく過ごした休み時間。


憧れだけで入って、個人的な事情ですぐに退部してしまったテニス部での日々。


悠斗にからかわれてふくれっ面した日。


素顔の藤野先生に出会って、いっぱい優しくしてもらった毎日。


数研のみんながすごく優しくしてくれて、一緒に勉強した部室。


先生に告白して、付き合うようになったこと。


高峰さんと色々あって、先生と別れて泣き続けた日々。


理系に転向して、椿に初めて声をかけてもらった三年生の始業式。


大変だけど楽しすぎた、数々の学校行事──。



全部、全部、しんどくても、楽しくても、全てが良い思い出になっている。


そんな全てを思い出して、泣かないわけがない……。


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