先生がいてくれるなら③【完】
普段学校では着用しない白いシャツを着て、黒いスーツに身を包む。
堅苦しくて好きじゃないネクタイも、今日はしっかりと締めて。
──卒業式。
この学校に来て初めて担任を受け持った生徒達を、送り出す日だ。
教室前の廊下で、ふぅ、と小さく息を吐き出す。
いつもはボサボサに垂れ下がっている前髪を、今日はきちんと上げて来た。
最後の祝いの日ぐらいはきちんとした格好で送り出してやるべきだ、なんて気持ちは全く無い。
前髪が垂れてたら、立花の可愛い泣き顔が見られないからな。
……きっと騒がしくなるだろう、けれど、それも覚悟の上。
もう一度小さく息を吐き出して、俺は3年2組の教室の扉を開けた。
教室内に一歩足を踏み入れると、予想以上のどよめきが起こる。
うるせ。
俺が「静かに」と言うと男子は口を噤んだが、女子どもはキャーキャーとうるさい。
もう一度「静かに!」と少し強い口調で言うと、ようやく静かになった。
「このあと大事な式典が控えてるので、あまり騒がないように」
そう言った途端に、女子たちがヒソヒソと話し始めた。
おい、お前ら、俺の言葉聞こえてねーだろ絶対。
いまから “良い話” でもしようかと思ったけど、やめた、こいつらどうせ聞いてない。