先生がいてくれるなら③【完】
「……先生、歌、上手いんですね。知らなかった」
「多分もう二度と歌わない」
「えーっ、また聴きたいですっ!」
「やだ」
カラオケなんか、大学時代にバイト仲間と行って以来だ。
流行の歌も知らないから、歌う歌がない。
そもそも、……あぁ、そうだ、聞こうと思って忘れていた。
「立花、ひとつ聞いて良い?」
「はい、なんですか?」
「……なんで、……今日、なんで “あの場所” だった……?」
カラオケ。
俺にとって忌まわしい記憶として残ってしまった場所──。
「……みんなに、ね、卒業式のあとカラオケに行こう、って言われて。私、『カラオケ、先生、来ないと思うけどなぁ』って、言ったんです……」
「……うん」
「なんで、って話しになって……、あの時の話をしたら……、」
「うん」
「先生にとって嫌な記憶になってしまってるんなら、無理矢理、塗り替えてやればいいじゃん、って、言われて……」
「……誰に?」
「……言い出したのは、悠斗で……、美夜ちゃんがすぐに賛同して……、その後、みんなが……」
「……そう」
立花を送る車の中で、不安そうな声で、ポツリ、ポツリと語る立花。
なるほど、そう言うこと、か。