先生がいてくれるなら③【完】
「だから、カラオケ?」
「……はい」
「そっか」
あの言葉を言うために、そこまで俺のことをいろいろ考えていてくれていたのか、と、改めて驚かされた。
立花はきっと随分悩んだだろう。
俺が想像していた以上に、色々悩み、苦しみ、辛い思いをしたに違いない。
俺はと言うと、立花の予想通り、あの直後から “カラオケ” と言う言葉を聞くだけで激しい嫌悪感が湧き起こるようになっていた。
もし学校で──数学準備室であの話をしていたら、俺は恐らく、学校が、あの準備室が、忌々しい空間だと思うようになってしまったに違いない。
それを避けるために選ばれた──選び抜かれた場所だった……。
そこまで心を砕いてくれたことに今まで気付かなかった自分が愚かすぎて、本当に申し訳ない気持ちになる。
自分の方がずっと年上なのに、この年下の恋人の深慮には本当に驚かされるばかりだ。
運転しながら、左手で立花の頭をぐしゃりと撫でた。
「わっ。先生、運転っ」
「大丈夫だよ。……なぁ、立花」
「はい、何ですか?」
「うん、……ありがとう」
「……えっ?」
「いろいろ、全部。すごく感謝してる」
「な、なんですか、突然……?」
突然謝意を口にした俺を、立花はとても驚いた顔でこちらを見ていた。