先生がいてくれるなら③【完】
先生は懐かしそうに目を細め、「あの時は、まさかお前が、球技が全然ダメだとは思わなかったなぁ」なんて言って私をちょっと馬鹿にしてて、私は先生の腕に手を伸ばして、ペシリ、と軽く叩いた。
「でもほんと、まさか、だよなぁ……」
「球技が出来なくても、生きていけるもんっ」
私がふて腐れてそう答えると、先生は「ちがうちがう」と言って苦笑した。
「そうじゃなくて。そうやって見てたお前が、いま、隣にいるんだもんなぁ」
先生はそう言って、私をグイと抱き寄せる。
──もしもし先生、隣、じゃなくて、先生の腕の中、ですけど……。
私だって、ですよ、先生──。
こんなに年齢差があって、立場も違って先生と生徒で、大人と子供で──、それなのに、先生は私のことをちゃんと見てくれてるなんて。
出会った頃は、そんなこと思いもしなかった。
ただただ先生の傍にいられることだけを考えて、必死だった。
先生のことが大事すぎて大好きすぎて、自分から離れた日もあった。
でも、やっぱり、私のいたい場所は、ここなんだ──。
だから、私はいま改めて、思う。
しあわせなんですよ、って……
──── 先生が いてくれるなら。
~ Fin. ~