先生がいてくれるなら③【完】
散歩と称した移動中の廊下で、高峰さんはとても不機嫌そうに何度もため息を吐く。
「あなた、頭が悪い割には悪知恵だけは働くのね」
「褒め言葉として受け取っておきます」
「ばっかじゃないの?」
「はいはい、褒め言葉、褒め言葉」
「……」
「さあ、着きましたよー」
──そこは小児科病棟の休憩室だった。
「ちょっと! 私、子供嫌いだって言ったじゃない!」
「はい、聞きましたけど?」
怒る高峰さんに、私はわざとらしく首を傾げて見せた。
「……帰る」
「はい、帰りませーん」
ひとりで車椅子を操縦できるはずが無い。
だって、高峰さんは左腕も骨折してるから……。
「ちょっと、ふざけないで……」
「あっ、あかりおねえちゃんだ!! やったー、ご本、読んで~!!」
高峰さんの抗議の声を遮るように、子供たちの元気な声が休憩室に響き渡る。
可愛いねぇ、元気だねぇ、んふふっ。
「良いよ~。今日はね、このお姉さんも一緒なの。良いかな?」
「「「もっちろん!」」」
元気にお返事をしてくれる子供たちとは対照的に、高峰さんは表情を硬くしている。
そんな事はおかまいなしに、子供たちはそれぞれ思い思いの本を持って私たちを取り囲んだ──。