先生がいてくれるなら③【完】
「……っ、」
心が、痛い……。
愛する人との子供を産んだことすら思い出せないほどの悲しみや絶望は、どれほどだっただろう────。
出産後しばらくして恵美子さんの元に赤ちゃんを連れて行くと、「……あら、可愛い赤ちゃんね、どなたの赤ちゃん?」と言われ、産んだことだけでなく、恋人の朔哉さんの事も忘れてしまっていたそうだ。
「──彼女の精神状態を考えると、これはお前の子だ、とは言えなかったよ……。だから 、“私と愛人との子” と言うことにした。いずれは言わなくてはならない時が来る事は分かっている、だけど、それまでは、と……」
私なんかが口を挟める話ではなく、私はただただ、教授の話に耳を傾けた。
「──自分の実の母親に産んだことを忘れられているなんて、孝哉にどう説明すればいいか、私には分からなかったんだ……。だったら────」
────だったら、自分が悪者になればいい、
契約した愛人に子供だけ産ませてお金と引き替えに捨てた、“最低な父親” に────
教授の決意に、思わず涙が溢れた。
どれほどまでの覚悟で、それを決めたのか──。
家族にどう思われるか承知の上でそうした教授の覚悟や決意を思うと、胸が痛む。