先生がいてくれるなら③【完】
珍しく──とても珍しく、親父から連絡が入った。
大事な話があるから時間を空けて欲しい、との事だった。
──大事な話?
まさか、見合いの話とかじゃないだろうな……。
立花とつきあい始めてからは見合いの話をして来ることは無かったが、それまでは何度断っても光貴経由で頻繁に見合いの話を持って来られていて、正直迷惑していた。
アイツと別れたことを知っているはずだから、見合いの話を再開してもおかしくはない。
俺は今年度は担任を持っていて仕事がとても忙しいが、親父は親父で大学病院のナンバー2として忙しい毎日を送っているはずだ。
なかなか予定が合わないだろうからこのままずるずると先延ばしにすれば、そのうちこの話は立ち消えに……なんて思ってたら、親父から「お前に合わせる」と言わてしまい、俺の策略はあっけなく打ち砕かれた。
しかも「秘書に迎えに行かせるから、自分の車では来ないように」なんてオマケ付き。
くそ、面倒だな、いろいろと……。
──親父の秘書の運転する車を降り、俺は実家の玄関前でひとつ大きなため息を吐いた。
どうしたって、前回ここに来た時のことを思い出してしまう。
あの時は隣に、緊張してガチガチになってる立花が立っていた……。
俺はもう一度ため息を吐いて頭を左右に振り、玄関の扉を開けた──。