先生がいてくれるなら③【完】
俺はソファにドサリと音を立てて座り、背もたれに背中をズルズルと擦りつけてそこに身を沈めた。
片腕で目を覆い、親父の言った言葉を反芻する。
だが何度この人の言葉を思い出しても、理解なんて出来そうになかった。
──否、頭では理解している、理解できないと叫んでいるのは、俺の “心” だ。
だって……、俺は今まで、血の繋がりもないのに何不自由なく育ててくれた人を、ずっと恨み、憎み続けてきたことになる。
そんな、そんな事って……。
俺の様子を見た親父は「すまない」と言って頭を下げた。
俺はまだ腕で目を覆ったままだったけど、それでも、立ち上がり腰を折って頭を下げたのが気配で分かった。
──やめてくれ。
目を覆っていた腕を下げると、腕でギュッと押さえすぎていたせいか、天井がぼやけて見える。
「俺の……本当の父親は、誰、ですか……?」
親父が──俺が父親だと思っていた男が、下げていた頭をゆっくりと上げた。
「お前の父親は、私の親友だった……」
親父は再びソファに腰掛け、そして、ゆっくりと、全てを話し出した。
親友との出会い、母さんとの出会い、親友の事故、母さんとの結婚、出産、母さんの精神状態────。
「今まで黙っていて、本当にすまなかった」
再び頭を下げる親父を前にして、俺は「やめてくれ……」と、とても小さな声で呟いた。