先生がいてくれるなら③【完】
──私は3冊の絵本を読んだところで、高峰さんに「読んでみますか?」と声をかけた。
当然の事ながら、彼女は顔を顰める。
「……読むわけないでしょ。声に出して読んだことなんて、無いもの」
そう言われることはこちらも承知の上。
「短いのでいいから、読んでみませんか?」
「絶対イヤ」
私たちのやり取りを、子供たちがじっと見守っている中、ひとりの女の子が私たちに近づいて来て、そっと絵本を差し出した。
「お姉ちゃん、これ、読んで欲しい……」
おずおずと絵本を差し出した相手は、私ではなく高峰さんに、だった。
「……」
誰もがしばらく無言でその状況を見守る中、ズイッと差し出された絵本を、高峰さんは眉根を寄せながら渋々受け取る。
「……私、下手だけど……」
高峰さんが視線を絵本に落としたままそう呟くと、女の子は「いいの!」と嬉しそうに笑った。
満開の笑顔に、私も思わず笑顔になる。
見ると、集まっていた子供たちも、とても嬉しそうだった。
高峰さんが絵本の表紙をめくる。
……彼女の手が、少し震えている。
緊張してるのかな。頑張れ……。
小さな子供向けの絵本だから、文字数はとても少ない。
たとえば幼稚園の先生とかだったら、大げさなぐらいに抑揚を付けて読んで聞かせるような、そんなのが似合う絵本だけど、高峰さんの声は少し緊張で震えて、とても小さな声──。
だけど──
子供たちは、一言一句聞き漏らすまいと、静かに彼女の朗読に耳を傾ける。
部屋の中がシンと静まり、聞こえるのは高峰さんの震える声と、絵本のページをめくる音だけ。