先生がいてくれるなら③【完】
小さく薄いアルバム。
俺はそのアルバムの表紙をなかなかめくれないでいる。
どんな見た目かなんて知った所で、俺の本当の父親だと言うその人は、もう生きていない。
虚しさしか残らない気がして……。
だけど、心の奥底にはやはり、どんな人だったのか知りたい気持ちもある。
俺は少しだけ震える指で、ゆっくりとアルバムの表紙をめくった。
そこには制服を着た高校生の頃の親父と、もうひとり、男性が写っている。
これが──この人が、俺の…………。
写真は全部で十枚ほどしかなかった。
親父と写るその人はとても端正な顔で、──俺と同じ薄い青灰色の瞳をしていた……。
あぁ、
この人が俺の本当の父親なんだ────。
親子だと誰もが認めるだろう、それぐらい、俺に似てる。
いや、俺が、この写真の人に似てるんだ……。
もしこの人が生きていたなら、俺はどんな人生を送っていたのだろう。
この人と母さんと俺の三人で──いや、もしかすると弟や妹もいたりして、家族で、仲良く平和に暮らしていただろうか……。
数学者の父と、優しい母と、俺、兄弟姉妹──。
ぼんやりと想像をしてはみるけれど、それは絵空事でしかない。
俺はゆるりと頭を横に振って、その想像を振り払った。
だって、亡くなった人が戻って来るわけじゃない。
小さくため息を吐いて、そっとアルバムを閉じる。
「それは、もしこの話をお前にする事になったら渡そうと思っていたものだ。もし良ければ持っていて欲しい」
親父にそう言われ、俺はそのアルバムの表紙を複雑な気持ちでじっと見つめた。