先生がいてくれるなら③【完】
しばらく俺も親父も何も話さずにいたが、俺はふと、気になったことを呟いた。
「どうして今、この事を……?」
すると親父はとても気まずそうな表情になった。
──なんだ?
「“ある人” がこの事に気付いてね……。お前の反応が怖くてなかなか言えないでいた私に、今のお前なら大丈夫だから、と言ってくれたんだよ……」
──“ある人”?
あぁ……、思い当たる人間が、ひとりだけいる……。
「──立花、ですか……?」
アイツしかいない。
光貴や広夢が気付いたとは思えないし、もし気付いたとしても、俺に話すように言ったかどうか……。
だけど、アイツなら、間違いなく、そして迷いもなく、俺に話せと言うだろう。
正義感だけは人一倍強く、お節介なアイツなら、きっと……。
親父は少し迷いながらも、頷いた。
──どこまでお前はお節介なんだよ、立花……。
そして、どこまでお前は、人の心の中に入り込むのが上手いんだ。
光貴や広夢だけでなく、親父までをも手懐けて……。
だが、“俺だけが蚊帳の外” なのが、俺はどうしても気に入らない。
俺を振って別れた今でも、俺の家族に会って、俺のことに口出ししてくる権利は、お前にあるのか……?
「彼女を恨むのはお門違いだよ。恨むなら私を恨むべきだ。今まで嘘を吐いてきたのも、それを打ち明けられずにいたのも、全て私の責任なのだから……」
そうかも知れないが、それでも怒りは湧く。
アイツの勝手な言動に、俺はどれだけ惑わされれば良いんだ……?
──行き場のない複雑な思いを抱えたまま、再び親父の秘書の車で自宅マンションへと送り届けられた。
秘書の男に恭しく頭を下げられ、思わずむず痒くなる。
今日の出来事をぼんやりと反芻しながら、俺はマンション内へと足を向けた────。