先生がいてくれるなら③【完】
季節はいつの間にか梅雨に入っていて、雨の降る日が多くなってきた。
空気が潤うのはお肌に優しいから嬉しい──なんて思っているのはほんの最初の方だけで、これからはジメジメするばかりの嫌な日々が続くんだと思うと、気分さえも湿気を帯びる気がする。
今日の三限目は、藤野先生の数学だ。
チャイムが鳴るのとほぼ同時に先生が教室に入って来る。
いつも通りに見えるけど──心なしか、少し不機嫌な気がする。
授業が進むうちに、それは私の思い違いではない、と思い知った。
私が絶対に解けないような難しい応用問題で、先生が私を指名してきたのだ。
うちは理数クラスだけど、この問題が解けるのは市橋君を始め、ほんの数人だけだろうと思う。
「……分かりません」
私がそう答えると、先生から放たれる “不機嫌オーラ” がますます強くなった。
クラスのみんなは私に同情的な目を向けていて、隣の池田君なんかは「大丈夫、俺も分かんない」って苦笑いしてる。
多分、教授が先生にあの事──本当のお父様のことを話したんだろうな……。
教授が私の名前を出したかどうかは分からないけど、先生は私が関係していることを知って腹を立てているんだと思う。
先生、ごめんなさい、勝手なことして……。
また先生を怒らせちゃった……。
そうだよね、私は赤の他人。
その赤の他人が家族のことに口出しするとか、一体何様だ、って思うよね……。
分かってるけど……。
良かれと思ってやったこと全てが、先生の怒りに触れる──。
やっぱり私は先生を怒らせる天才なのかな、なんて、自己嫌悪……。
──だめ、もう浮上できないかも……。