先生がいてくれるなら③【完】
* * * * *
梅雨真っ只中のある日、高峰さんの病室へ行くと、彼女の表情がいつもと違うことに気がついた。
「……目、赤いですけど、大丈夫ですか?」
私がそう聞くと、彼女はふいっと顔を背けてしまう。
「……目にゴミが入っただけよ」
そう答えただけで、今日はなかなか私と目を合わそうとしなかった。
──それこそ最初の頃は私の事を獲物のように見据えて、睨みつけるように私と目線を絡ませて来ていた彼女。
それが徐々にではあるけど、睨んではいても、憎しみを込めたような視線ではなく、むしろ半ば呆れたような表情に変わってきているのを、なんとなく感じてはいた。
彼女の中で少しずつ何かが変わり始めているのかな、なんて思ってはいたけど……。
今日の高峰さんは、私に対して不機嫌そうにはしているけど、明らかに以前より表情が柔らかくて……。
その理由を私が尋ねてもきっと答えてはくれないだろうから、言葉にはしないけど……、でも……。