先生がいてくれるなら③【完】
──彼女の今日の表情と態度の理由が分かったのは、仕事を終えたお母さんが帰宅してからだった。
私は、お母さんには高峰さんのことを “事故で怪我をして入院している先輩” だと説明していた。
本当のことは言えないし、ほんの一部に誤解があるだけで、全てが間違いなわけではないから。
「明莉の先輩の高峰さん。ミチルちゃんの手術が成功したこと、すっごく喜んでたわよ~」
お母さんの言葉に、私は思わず「え?」と驚く。
ミチルちゃんと言うのは、小児科病棟に長らく入院していて、今日とても大きな手術をする事になっていた5歳の女の子だ。
私や高峰さんが絵本を読みに行くと、必ずとても喜んでくれる可愛い女の子。
初めて高峰さんが読み聞かせをしたのも、ミチルちゃんが選んでそっと差し出した絵本だった。
「高峰さんね、手術が終わる予定の時間に病棟に来てくれて。でも手術が予定よりもちょっと長引いちゃって、その間とても不安そうにするミチルちゃんのご両親を一生懸命励ましたりしてたわよ」
お母さんの口から語られる予想だにしない高峰さんの行動に、私は思わず目を見開いた。
「予定時間から2時間ぐらい経って『成功しました』って知らせが来た時は、歓喜で涙するご両親の隣で、ひとり静かに泣いてたって……。高峰さん、とても優しい人ね」
「……」