先生がいてくれるなら③【完】
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7月も半ばを過ぎようとしている頃──。
高峰さんの病室を訪れた私に、「話がある」と高峰さんが真剣な表情で声をかけた。
病室の椅子に座るように促され、私は少し緊張しながらそこへ腰掛ける。
そして、唐突に「……藤野先生ってイケメンよね」と呟いた。
私は「え、あ、はい……」と間抜けな返事しか出来なくて、案の定、高峰さんに睨まれた。
「あなたってホントに、バカって言うか、ぼんやりしてるって言うか……」
高峰さんは睨んだ後にそう言って、呆れてため息を吐いた。
「──私が高校一年生の時だった、藤野先生が新卒で赴任して来たのは」
何の話が始まるんだろう、と身構える私の事など構わずに、高峰さんは話を続ける。
「藤野先生と、もうひとり、やっぱりすごく格好いい先生が一緒に赴任して来て。それはもう女子たちは大騒ぎだった」
あぁ、分かります、そうでしょうね、あんなのが来たら、そりゃもう……。
思わず頬を赤らめる私を高峰さんは呆れ顔で一瞥して、また話を続ける。
「もう一人の先生は物腰が柔らかくて、人を上手くあしらうタイプ。藤野先生は何を考えてるか分かりにくくて、人を寄せ付けないタイプ。色で言えば、白と黒。正反対のふたりで、女子たちの意見も二つに分かれた」
高峰さんは一度そこで話を止めて、「……人当たりのいい人って、本当は何考えてるか分からないから私は好きじゃない。私の親がまさにそんなタイプだった。だから──私は藤野派だった」と続けた。