先生がいてくれるなら③【完】
高峰さんは「あの女は、プライドが高い女だった。だからプライドを完全に粉々にしてやった。他にも色々手を尽くしたわ。──案外簡単だった」と言って、フフッと笑った。
私には高峰さんが笑った意味と、『簡単だった』と言った意味が全く理解できていなかった。
首を傾げる私に、彼女は残酷に言い放つ。
「──狂わせるのは、思いのほか簡単だった。すぐに手首を切ってくれた」
ゾクリ──と、背筋が寒くなる。
そんな怖い台詞を、涼しい顔で言ってのけるなんて……。
「だけど……残念ながら、未遂だったわ。あの時ほど落胆した時は無かった」
私の困惑しきった視線を感じたのか、私を一瞥した後、また言葉を続ける。
「あの後からね。先生の私への態度がますます冷たくなったのは。そりゃそうよね、いくらそんなに好きじゃ無い女だったとしても仮にもあの女は “彼女” なわけだし、その彼女を自殺未遂に追い込んだ相手に優しくする道理なんて、微塵も無いもの」
この話は私が聞いても良い話なんだろうか──。
しかし彼女は私のことなどお構いなしに、話を続けた。
「結局その自殺未遂が元で、ふたりはやっと別れてくれた。やっと私の番が回って来た、そう思った。──それなのに、先生はちっともこっちを見てくれないの。見てくれないどころか──学校を辞めて、どこかに行ってしまった……」