先生がいてくれるなら③【完】
「……このボイスレコーダー、あなたにあげるわ」
「……へ?」
突然言われた言葉に、私はとても間抜けで頭の悪そうな声を出してしまい、ついさっき感じた敗北感を改めて噛みしめる結果となった。
そんな私を見て高峰さんは「……相変わらずねぇ」と呆れ顔をする。
「あなたの声だもの、あなたに返すわ。消すなり壊すなり、好きにして」
高峰さんはそう言って、ボイスレコーダーを私の手元へとギュッと押しつけた。
「……言っておくけど、バックアップなんか取ってないから」
そう言われて、私は思わず「……は?」と、さっきと大して変わらない声を出してしまい、慌てて口をつぐんだ。
呆れを通り越したのか、高峰さんはニッコリ笑いながらボイスレコーダーを指さして、もう一度「バックアップなんか、無いって言ってるの」と繰り返した。
そして今度は自らの携帯を手に取り、私の目の前で私に見えるように操作を始める。
画面に映し出されているのは、動画の一覧画面。
一覧、とは言っても、たった一つしかそこには表示されておらず、高峰さんは迷うことなくそれを選択し……消去するためのボタンを選択する。
本当に消去するかどうかを問う画面が出て、再び迷うことなく、消去するボタンをタップした。
一覧から動画が全て消え去り、“0件” と表示されている。
「──高峰さん……」
私は信じられない思いで彼女の顔を見つめると、彼女の瞳がゆらりと揺れて……。
「こっちもバックアップは無いわ。だから、これで、終わり──」