先生がいてくれるなら③【完】
「大学だって、親が決めた所を受けさせられた。心では反発してたけど、親の敷いたレールを外れることは出来なくて。だって、他にやりたいことも、なりたいものも、私には何も無かったから……」
そう言って、彼女はとても悲しそうに笑った。
「でも……」
彼女の目が伏せられ、長い睫毛が一層際立つ。
メイク無しでこの睫毛の長さ、うらやましすぎて叫びそう……。
そんなバカな事を考えていると「……変顔する時間じゃないんだけど」と、目をパチリと開けた高峰さんに呆れられた。
どうやら私は変顔になってたらしい。
「……すみません、続けて下さい……」
私が頬をさすって変顔を直しながらそう言うと、高峰さんは呆れながらも話を再開した。
「つまりね、私は、やりたいことが見つかったの。親が決めた道じゃなくて、私が、心からやりたいこと」
彼女の真剣な表情が、それが中途半端な気持ちでないことを既に物語っている。
一体、彼女は何を見つけたんだろう?
「私ね、ここに入院してる子や、その家族のような人たちを支える仕事がしたい」
高峰さんの瞳は、キラキラと光っている。
涙ぐんでいるとかじゃなく、きっと、初めて自分の将来を自分で決めた、その輝きなんだと思う。
「……それを見つけることが出来たのは、あなたのおかげ」
「えっ、私、ですか……?」
「だって、そうでしょ? あなたがお節介をやかなければ、私は自分から子供たちと関わるなんてこと絶対にしなかったもの」
それはまぁ、そうなんだろうけど……。
でも、私のおかげって事でも無いと思う。
きっと高峰さんなら、いつかちゃんと自分で見つけてた、そう思う。