先生がいてくれるなら③【完】
私の考えを読み取ったかのように高峰さんは「……バカね」と言って、私の背に腕を回して、私をギュッと抱き締めた。
「あなたって、ほんとバカ。私を悪者にしちゃえば簡単なのに。先生だってあなたを本当に好きなのなら、きっと分かってくれる。あなたは天性の人タラシなんだから、こう言う時に本領発揮しなさいよ……」
「なんですか、それ……っ」
私が思わず涙ぐんでしまうのは、高峰さんの声も、涙声だったからだ──。
「私が説明しようか? 先生は私と会うのを嫌がるかも知れないけど」
私を抱き締めたままそう言う高峰さんに、私は首を横に振った。
「いいんです」
「……ホントに、ホントにバカね」
高峰さんが私を抱き締める腕に少し力を込めた。
「そう言うのは、人に何とかして貰うものじゃ無いですから」
私がそう言うと、高峰さんは腕を緩めて私から離れた。
「あなたって本当にお人好しすぎる。たまには自分を最優先にしたってバチは当たらないわよ?」
高峰さんの頬に、ひと筋涙が零れた。
「最優先にしてますよ、これでも」
「どこがよっ」
「……さぁ?」
私は自分自身の言葉に思わず吹き出してしまい、つられたのか、高峰さんも笑い出した。
「……さ、お母さんが下で待たれてますよ。そろそろ行かないと」
私がそう言うと、高峰さんは涙を指で拭ってコクリと頷いた。
「──立花さん、ごめんね……ありがとう」
初めて私の名前を呼んでくれたことに驚き、喜び、そして……涙した──。
これからの高峰さんが、どうか、どうか幸せでありますように──────。