君に伝えたかったこと

やめればよかった

待ち合わせのラウンジに着いてもさおりの姿は見えない。

しかたなく窓際のテーブルへ据わり、眼下に広がるクランブル交差点を眺めていた。

信号が変わるたびに様々な方向から人が歩き出し、ひとつの塊となってはまた散ってゆく。そんな光景が視界の中で何回も繰り返されたとき、ふとテーブルの上に置いたスマホの画面に視線を落とす。

(自分からお願いして呼び出しておいて遅刻・・・)

これもいつものことだった。
美貴恵がラウンジについて10分もたった頃、さおりがグレーのジャケットと茶封筒を片手に現れた。

「寒いね~」

「アンタねー、なんで遅刻なわけ? わざわざ出てきたんだから、ここのお茶くらいはおごりなさいよ」

「わかったわかった。でね、今回お願いしたいのは・・・」

そういってさおりは今回の無理なお願いについて話し始める。

もちろん断るつもりだったから、この話が終わるまで黙って聞いているだけだった。

そして、きっぱり断ったら、デパートに寄って大好きな洋服を眺めて帰る。
それが美貴恵の予定していた今日の行動だった。
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